チしゃる、その通りね。私たちの生活の中で、それは決して決して過去の文法では語られません。これも何といとしい私たちの現実でしょう。そういう点でも、ユリは、お互にとっていい芸術家になろうと思います、こんなに自分たちの生活を愛していて、そして、ねえ。
 床に入って、雨の音をききながらやすみます。
 明後日お目にかかります、お大切に。あら、土曜日ね、ではもう一日さきになります、本当にお元気で。

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[自注27]山口さん――山口弁護士。
[自注28]御老母――蔵原惟人の母。
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 八月十一日 〔巣鴨拘置所の顕治宛 駒込林町より(封書 速達)〕

 八月十一日  第七十六信
 日本橋の東洋ケイザイへ行ってハンケチ忘れて行って、フーフーになってかえって来たらお手紙。(九日づけ)大いにニヤリといたしました。というわけは、珍しくもあなたからのお申しつけの方がほんの一足あとになったわけですから。大いに気をよくいたしました。本のノートなんか勿論ちゃんとしてあります。『医典』のところには未決の赤チェックがしてあります。
 さて、用事だけをとりいそぎ
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一、『経済年報』昭和八年度 第十二輯―第十五輯揃いました。
一、『朝日年鑑』九年版、十年版揃いました。
一、『朝日経済年史』これは目下親切な人が大阪の社へ問合せ中です。大観堂の方はまだ。
一、『医典』については「速達」ハガキに申しました通り。大正十二年版ではひどいと本やの話です。いかがしましょうか、本月末まで待ちましょうか。
一、弁護士のこと、代々木の方はハガキで申上げました通り。伊勢氏はまだ行かないそうです。栗林氏には、先方がまだ会っていないそうだからもうすこし経って、と云いましたらあなたが、直接本人に会って欲しいと云っていらしたとのことでした。土曜日におめにかかって、どうするか伺いましょう。伊勢氏は、父親を知っているし子供のときから知っていて情において放っておけないが、その情に立って自分の云いたいこと又自分としてそうとしか云いようのないようなことは、本人は云っても貰いたがらないのだし、と大分閉口のようでした。具体的な点で、誰にでもわかるひとり合点を注意してやるということは、勿論必要だと云って居りそのために会うと云ってはいるのですが。
一、勉強の表、その
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