烽、出産が迫って来たので重さや何かで腰が苦しがっている、それをすこしなでてやって。そしてまことに奇妙な手紙よみました。岡山の一人の女のひとが、お金を三十円かりたいのですって。いるわけは云えないのですって。詐欺でないことはたしかなのですって。無学とかいてある字は少くとも女学校は出て居ります。山本有三のような作家、さぞひとり合点な手紙よこされるのでしょうね。こういう手紙には返事も出しかねますね。
「ユリ、元気そう」と云って下すってうれしいと思います。
おかげさまで、よ。尤も深い豊富な内容での。様々の深い感想をもって、益※[#二の字点、1−2−22]それを深められながらユリが元気で今日いるということには、ひとかたならないものがあるわけですから。この間或座談会(映画の)でとった写真が『読売』に出て、小さいちょこんとしたのながら扇を胸のところにもって、いかにも心持よさそうにしていると、わざわざアミノさんが、あの写真ないかときいて来ました。寿江子も見たと見え、そのこと云ってよこしました。おかげさまで、とそれをお目にかけとうございます。
この頃よく思います。私は作家であって何と仕合わせしたろうと。そのことを、全く妻としての生活から屡※[#二の字点、1−2−22]思います。私たちがそういうものであるために、生活のいろいろな面を、何と手のうちからこぼさずに生きて行けることでしょう。それによって生活をうるおされ、やさしくされ、新鮮にされ、きのうは更にきょうであり、そしてこの今であるというようなものを、のがさないで生きて行かれることでしょう、ね。
詩人たちの秀抜な感覚や手法を、そのまま私たちの生活に生かして、溢れる詩のなかにひたれるのはうれしいことです。そういう美しさがなかったとしたら、失われたとしたら、私はきっと、ユリは元気そうでと云って頂けないでしょう。詩の歴史が回想されると云われて居ります。けれども、芸術の神通力は、それをこの瞬間にもたらしますから、だから、作家であってよかったと沁々思うわけです。それは全くリアルです。一刹那の耀きでも、ぱーっと景色と色調と交響する音の全部が見とおされます。そういうたのしさ。そういうものが生活をいやし、新しくする力、それは実に大したものです。そうお思いになるでしょう? 年毎にそのことがわかって来ているでしょう? より深い休息とあなたがよんでいら
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