アまれた俊子のような華美な悲惨もある。この時代は複雑です。そして又面白い。この時代には女の入り乱れた跫音が響いている。やがて市子が大杉を刺したのをクライマックスとして、新人会の時代が展開されて来て、文学は一つの〔約五字不明〕女の世界の中に於てもあけるわけです。
こういう歴史の見とおしで見ると、自分のありようも広〔約五字不明〕ら見晴らせてなかなかためになります。うぬぼれたいにもうぬぼれられませんものね。四十年代の、若い女がどっと芸術の分野にきおい立ったのは、大局から見ると一つのリアクシオンです、丁度国会開設がきまった後、青年が法科からどっと文科にうつった、紅葉なんかの時代、それにやや似ています、売文社の時代ですから。売文社で一脈を保とうとした時代だから。
自然主義が文芸の上に一つの道を建てたというより多くの流派への一つの門をひらいた形となったのも、日本としては独特の自然主義、つまりはロマンティシズムの変形であったようなところ、いろいろと面白く思われます。あの時代の天弦氏の評論も新しい味で見ました。では又ね。
八月七日 〔巣鴨拘置所の顕治宛 駒込林町より(封書)〕
八月七日 第七十四信(これは九枚あります)
ひどい嵐があったせいか、今日の日ざしや風の音は秋が来たようですね。空も。こういう乾いた木の葉の音は本当に秋を感じさせます。
二日づけのお手紙、五日につきました。ありがとう。目玉くりむいていたので、返事申上げるのおくれました。「入り乱れた羽搏き」32[#「32」は縦中横]枚終ったところです。但徹夜はいたしませんでしたから。(大正三年ヨーロッパ大戦ごろまで)
丸善の本のこと。私もほしいと思って居りました。六章加入の方も欲しいこと。先の本ではレオンの流派の影響がどんなに複雑に作用するかということについて、著者は単純に現実を見て居りました。そういうこともどう成長したか。やっぱり欲しいと思います。今日では、アメリカと日本との距離は全く地理で習ったような標準ではないのね。一冊も来ません。きいてやろうと思って居ります。『ウスリー物語』まだです。
『医典』の方はまだ品切れ。どうかもう少々お待ち下さい。年鑑類は社会にいる人にたのんで貰うよう重治さんにたのみました。今に有無がわかるでしょう。金曜日に栗林氏行くように云って居りましたが、いかがでしたろう。雨でしたが。
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