揩ニを常に思い出しながら。
 ああ。この部屋にいると何と青葉の風が私の皮膚の上に青くうつるようでしょう。
 二十二日
 きょうは雨。いい日にふり出したと思います、すっかり干すもの干してしまって、きょうは私一日小説をかいているから、丁度二階が眩しくなくて。この小説はきょうとあしたとで書きあげます。一寸したの。しかし前からかきたかったもの。書いてしまったら申します、いつか話していた姉弟の話、あれはすこし大きすぎるのです、場所に合わして。あれはあれとして、別にかきます。
 御気分はいかがでしょう。割合照りつづけましたから、きょうの雨はやはり悪くないでしょうか。
 マツ、あしたの朝そちらへ行ってかえる迄いてくれます。それで大助り。月末には越後の方から女中さん、見つかるかもしれません。本間さんの知っている手づるから。誰でもよい、いる人さえあれば。そして年よりのひとでなければ。どうかあなたも御安心下さい。越後のひとは、辛棒づよくそしてお金ためるのが上手の由。私の世帯も、もしその子が来たらまかしてお金持! にしてもらいましょうか。但、それが裏がえしに作用されたら相当閉口いたしましょうね。大笑い。
 ね、私は心からねがっています、あした工合がわるくなくて、代理ではなくお会い出来るように、と。あしたはどんな花にしましょうか。青々としてたっぷりした鉢植えがあればようございますが。いつぞやの藤、お引越しのときお出しになってしまったでしょう。今小説の中では、一人の女が、雑司ヶ谷の雑木林のところを歩いて居ます。

 六月二十三日 〔巣鴨拘置所の顕治宛 目白より(封書)〕

 六月二十三日  第五十五信
 ようこそ! ようこそ! けさはうれしいおくりもの。ありがとう。「ポストを見ておいでよ」とマツに云って、これが来たので、思わず目玉ひとまわりさせ、髪をとかしかけのままよみました。
 勿論私は、達ちゃんたちにやきもちはやきません。いろいろそうやって本をよんだ心持など書くとは、達ちゃんも結構です。あなたのいろいろの御親切もそうやって通じて、うれしいと思います。同じ一年或は二年が彼の一生にとって何とちがう内容でしょう。
 藤の話、そうだったの! きょうの寄植というのはいかがでしょうね。きれいで、匂いも心持よければいいけれど。
「ミケルアンジェロ」、環境の説明の点、たしかにそういうところありました。し
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