[サンを入れて体をさっぱりと拭いて、そして、これを書いていたというわけです。
隆ちゃんから手紙来。どこかへ行っていて、私が五月十日ごろだした手紙をやっと見たと云って五月二十四日づけ。やっぱり達ちゃんのところとは大分ちがいますね。この間送った写真(あなたの方とおそろい)もきっと随分手間がかかることでしょう。何にもこまかいことなく、只手紙の礼、お母さん御上京のよろこびだけです。あなたに呉々よろしくとのこと。
本月二人に送るものには、面《めん》蚊帖を入れてやりましょう、これは顔をつつむ蚊帖です。それに隆ちゃんには肩ぶとん。ものをかつぐとき当てるものです。それに、一寸した下駄みたいなもの。隆ちゃんは、手紙書いた日に酒、タバコ、ビールの配給をうけた由です。どのあたりにいるのか、凡そ見当もつかない手紙でした。そちらへ何か来ましたか。
どうか呉々お大事に。私はこういう言葉、あなたには只一ことでいいのだと思ってがまんしているのですから、どうぞ御推察下さい。
六月十三日 〔巣鴨拘置所の顕治宛 目白より(封書)〕
六月十三日 第五十一信
きょうはなかなかむす天気です。御気分はいかが?
きのうはいそがしい間、もうすこし待ってくれ待ってくれと云っていたお客日で、一日。
動坂の家に、小説の原稿をもって来ていた女のひと、そのひとは御存知ないが、作品おぼえていらっしゃるかしら。あの小山いと子さんがこのごろ、とにかく女流作家ということになって来て居ます。久しぶりで来て、いろいろの話。旦那さんはつとめのため福島の方へ行っている由。桜木町の家には女学校五年と一年の娘と三人ぐらし。一昨年からそういう生活。そして仕事を発表しはじめている。話の間で女のものをかく人はいやだ、男の方が親切と云うので、男は、てんで問題にしないで高をくくっているから親切みたいなんで、女は一応互角のように思うからなのだろうと話したことでした。アフガニスタンにおける日本の土木技師の生活をかこうというので大苦心です。この人は、小さいこせこせした身辺小説はかきたくないというのはいいのだけれども、大きい題材をこなすだけの生活も勉強も足りないから、メロドラマに陥る。人間との心持もまだまだふみわけ入っていないところがあるし。大変なものですね。
いと子さん、私がおひるの仕度して台所にいたら、立って来て手つだってくれました。
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