]波で、お喋りをとどめるのに骨が折れます。
 さて、すこし家のことに戻ります、六月十三日は母の命日なので寿江子それまで伊豆にはゆかぬ由。七月九日ごろ咲枝が赤子《アカコ》チャンなるものをうみますから、そのときは、太郎のために林町に行ってやる約束いたしました。誰もいないのはよくないから。
 きょうは、島田で御仕事のあった日です。昨夜お母さんからお手紙で(三日づけ)お菓子も写真も私の手紙も一どきについて、お菓子は大変めずらしいから、お客膳のなかわんにもって出しますということです。ようございましたね。
 あなたのお体すこし疲れていらっしゃるとかいたから、お大切にということです。血圧は百二十ですって。すこしこれではすくなすぎますね。90+57=147[#この式は底本では組書き]ぐらいでいいのに。この次の手紙でうかがって見ましょう。
 今日、又ひさ留守です。八日ごろかえりますいよいよ。代りの人いないので、先達てのように一寸林町からかりるか派出婦たのむかします。仕事のせわしい間、十日位まで林町からよぶかもしれず。これから、マアお茶でものみながら一思案いたしましょう。
 明日はどんなお顔色でしょう。丁度先月六日に手紙下すったから一月たちました。こんな心持面白いこと、全く待っていないのに、実に待っている、こんな心持。では明朝。いろいろ。

 六月七日夜 〔巣鴨拘置所の顕治宛 目白より(封書)〕

 六月七日  第四十八信
 ああア。先ずこういう工合なのです。久しぶりに髪を洗って日光のさしこむお湯に入って。大分かわいて来たので、「二階へ行こうか」とおっしゃるあなたのうしろにくっついてあがって来る心持で、ここへ来て、さて、とくつろいで向いあい。髪はたいへんすべすべです。あなたのはいかが? 苅ってほどないように見えましたけれど。
 ほんのすこうしずつ、少しずつ、いくらか疲れかたが減るように感じられるけれども、そういう私の眼力は、本当の状態にふれているでしょうか。どうもたよりないとこの頃は思って居ります、爪に白い半月形が出ていて、ああと思ってうれしがって見たりしたの、あれは本当に爪について居りましたか? 私が見えたように思い、只がつがつと見ただけだったのかしら。あれから、あの急なひどい疲れの御様子でしたから、白い半月形なんて、なかったものかと思う気さえしました。もしなかったものを見たとしたら
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