いろいろお話したこと。例によっての云いかたしか出来なかったけれども、要点をはっきり、現実に即してすぐのみこんで頂けて本当にうれしゅうございます。本当にうれしく気が休まる思いです。別の人をもう一人とおっしゃっていたし、三十日来、苦慮していた次第でした。性格やその高くない面や野心やそういう要素をはっきりわかって下さると、その上でのこれからのやりかたが細かいディテールにふれて、やって行く上に便利です。通俗作家が『朝日』へ連載になるのをもって一つのゴールと目ざすようなものでね。新聞へも並び大名の前列に一寸出てのるというようなことが関心事であると、その立役者として場所に非常に敏感で、自分[#「自分」に傍点]のことが仕事なのか、ひとのためなのか混同されてしまうのですね。そういう意味での立志伝中の人。なかなかデリケート。「わが道に立つものは容赦はすまじ」というような復讐的闘志が熾《さかん》であるのは、一寸類がないのではないかしら。そういう性格も心得て、大局から見てそろそろとやりましょう。要点をつかんで、のみこんで下すったことを、私がどんなに吻《ほ》っとしたかお察し下さることが出来ようと思います。
 天気がからりとしていたし、昨夜は、寝汗余りおかきにならなかったのでしょうか。皮膚の工合すこしはましに見えましたが。こまかい期日にかかわらず加養なさること、全く必要であるし当然です。どうぞのんびりと願います。
 きのうの雨! 家じゅうたらいだのバケツだの、洗面器からおなべまで出動し行列をつくりました。その雨の中を徳さんが、したたるばかりに濡れて来ました。北京へ勤め口がありそうで行く由。柳瀬さんの心配の由。「そして、奥さんは? 一緒?」「いや、あれは国へかえります。」国のことは先《せん》話にきいていてかえれるわけのところではないのです、本当の生活を考えれば。そこをとび出して、東京で働いていて、結婚したのだから。
 徳さんと生活するということを断念してしまったのですって。この十年ばかりの間のいろいろなことが、複雑にたたまって来ているのであるし、又相互的な責任もあり、第三者として何も云えないところもあるけれども、何か苦しくて。徳さんの苦しさもわかり、歌子さんがそういう本質的退陣を決心したのもいい気でやっているのではなかろうし。小説をかくのだそうです。
 どっちがどうと云えないと思います、徳
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