ウんの考えかた、やりかたにしろ。近々出かける前には、あなたのお体さえよければ一度お会いしたいとのことでした。家庭のことは、私だけの知っていることとなって居りますから、どうぞそのおつもりで。今日の大陸が吸収する人々の生活、その道、その色彩ということを、おのずから考えました。やつれていました。仕事がつまっていたけれどもあり合わせで夕飯をあげました。それから仕事にとりかかり五枚半かいて、床に入り。(十一時)様々の感想がたたまって居りましたからやや眠りつき難かったが、よく眠りました。
けさ六時に目をさまして戸をあけたら、朝日が若葉にさしていたのでうれしい気がしました。私の方が早くおきたのでおひささんキョロキョロしてあわてました。庭の土にじかにうつしたアカシヤの実生の芽がこの頃めだって大きくなりました、萩もどうやらいい勢。いつからか、五月の初旬、お母さんおかえりのとき入れた藤の花のこと伺おうと思い思い、ついおくれてしまいます、どんなのでした、藤色の? 今年は白藤一つも花をつけず。こっちの庭へつれて来ようかなどとも思います。あの白藤に房々とはじめて動坂の玄関に来たときのように花をつけさせて眺めたい。御異存ないでしょう? 樹は足かけ八年の歳月の間にずっと太っているのですもの。咲かしてやればどんな見事な花房をつけるでしょう。場所さえあれば棚にするのにね。われらその白藤のかげに憩わん。(あまり美文ですかしら。蜂にさされるかもしれないわね)
これから一やすみ。窓をあけて風をとおしているので、外の砂利をふむ人の跫音などがして、午前のしずけさがひとしお深うございます。図書館行は明日。きょうは家にあるだけの本をよみ。夜は林町の連中と自由学園の音楽会をききに出かけます。ここの音楽教育は有名です。だが、生徒を入学させるとき、先ず資産しらべをやる、そして云うことをきき、学園型になる子を選ぶ眼力にかけては、もと子夫人の旦那さん大したものである由。おむこさんである人が、ああいう心で「ミケルアンジェロ」をかき、そういう家族の雰囲気、経営、そこに入り切っている自分の妻を、どのような心で感じているでしょう。
では又明朝。毎日すこしずつ書く方がやっぱりいい、そうお思いになるでしょう? 来週水曜といえば明日から五日。丁度六日ごろ一区切りつきますから。ひさ七日ごろかえります。
六月三日 〔巣鴨拘置所の顕
前へ
次へ
全383ページ中200ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
宮本 百合子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング