ハの豊富さに目がくらんで、ちっとも評価がないから。そのよりどころがないから。学んで来るには、先ず、何が学ぶべきものであるかを見きわめなければなりませんものね。
    ――○――
 うちに雨もりがします。風呂場と四畳半。これはきっとうちで屋根やでも呼ばなければ改良されないかもしれない、もう二度も大家さんの屋根やが来たのですが、瓦を買わないのよ、だから不足の分があってそのままだから、いつも洩るのです。家賃をあげない。そのことを[#「を」に「ママ」の注記]じっと腹にあるにちがいないから、きっとなかなか屋根や呼ばないでしょう。
    ――○――
 これから、一つの交友録をかきます。半島の人々との交友録。誰という人を中心としてかくことは出来ません。昔知っていた詩をかく龍済さんにしろ、今はどうなっているやら、あっちへかえるときから妙なこと云っていたから。特に半島の人々との交友という点に着目したりするところに或不自然があると思います。そんなことを書こうと思います。
 それを書いたら本読み。もう少々で第一巻終り。分業というようなことでも大ざっぱに考えているだけであったのに、いろいろわかり面白うございます。それに又文学的と笑われるかもしれないが、この本の構成の立派さが実に屡※[#二の字点、1−2−22]感歎をひきおこします。文学作品の構成というものは、つきつめると、一人の作者が、その現実の諸関係をどう見ているかということの反映であることが、こういう違った例で一層確められます。その展開の方法、掘り下げの方法、そして又再び発展してゆく動的な思索。偉いものですね。一口に云えない美しさ畏《おそろ》しさがあります。分業についてもプラトーンなどが「人が才能に応じて、適当の時期に、他の仕事に妨げられることなく一つの仕事だけをすれば、一切のものはより豊富に美しくつくられる」という点について肯定しているのと、科学として存在しはじめたばかりの経済学が、当時の分業の性質の上に立って、どこまでも量と交換の場合の価値からだけ問題を見たということ。いろいろ面白い。プラトーンなどが、作られるものの、質のより優良という点からだけ分業の価値を見たこととの対比が。昔々、プラトーンの「リパブリック」など哲学としてよんだ時代からぼんやり盲目窓のように立っていたものが、こういう現実的な光りでパッと開いたような面白さ。
 
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