セといいのですが、太郎がはしかのなおりかけで外出出来ないから。
宇野浩二が『読売』に、「この頃は作家が片っぱしから流行作家になる、わるい心がけだ」と云っている由。全文よまないからわかりませんが、それだけのことさえ云う作家がすくないから目につきます。久坂栄二郎「神聖家族」という劇、役所のスイセン劇になったそうです。こういう題はパロディーの題ですが、作者ぐるみというのはやはり独特でしょうね。月曜日は九日ね。十日におめにかかります。もう袷におなりになりましたか?
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[自注15]奥の手のお望み――転向せよ、という母の希望。
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五月九日 〔巣鴨拘置所の顕治宛 目白より(封書)〕
五月九日 第三十六信
きょうの空は何と青いでしょう。その青空の下に青葉がいかにも爽やかです。ところがその青葉と青空との上に、王子あたりの見当に濛々《もうもう》と煙が立ちのぼっていて、まだ小爆発の音が折々して居ます。夏の白雲のような煙が北に当ってひろがって居ります。飛行機の音がします。つよい風です。
さて、御気分はいかがでしょう。先日うちから気にかかって居り、土曜日のときには実に懸念でした。様々の気くばりやら何やらで本当に御苦労さまでした。私も随分へたばったけれども、そちらは又独特と思われますから。どうか当分大いに悠々と御休養下さい。今は体の苦しいときです。そして気候も大してよくありませんし、手紙なんかどうかお気の向いたとき一筆下されば結構ですから。友人たちにはよくわかるように話しておきましたから、その方も何の心配もありません。お話の電報出しました。あなたの仰云った通りの文言の下にお名を入れ、つづけて「ゴアンチャクニテアンシンツカレオタイセツニ ユリコ」として出しました。「アンチャク・ゴコウイシャス」という電報がそちらからかえったら来て居りましたから。
お母さん、しんから御満足でおかえりになったのは何よりでした。誰の目にもその満足ぶりは明らかであったようです。あなたのお心づかいも決して無駄ではなかったから、うれしいと思います。かえりの汽車の窓で、顔を赤くして涙をこぼしてはハンケチで拭いていらっしゃるのを見たらお可哀そうでした。丁度すぐとなりの窓で出征軍人が盛に「死んでかえれとはげまされ」と歌われているので、猶々感傷であったのです。御一緒に
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