正しく示されるという[#「う」に「ママ」の注記]がない)そこに危険はあるのです。低いところへ移ってゆくと思わず、高いところにいて、事実対比の上ではそうであるが、地盤の下りようがひどいから全体として大したズリ下りになってしまっていることがあり得る。そこがこわいところであると思われます。昨今の私は仕合わせに自分のプラスの面をかぞえないといられないように貧弱でもないから、本当にいろいろ書いて下さること底までよくわかるし、その点では私心ないの。それは前便にも書いた通り、ね。片上全集の第二巻御覧でしたか? 一人の友に二つの種類のものを求める心のこと、お思い出しになれましたか? 又くりかえしになりますが、それこそ人間が人間に求める深い深い心ですね。男同士、女同士でさえそれは稀であり、ましてや男と女との間に、そういう二重の一致があり得るということは、一般の事情、文化のありように準じて、何と何と稀でしょう。男と女であるという単純な偶然から必然であるかのように結びつくのが一般であるのだから。
 十四日の朝ついて、十五日は一日茶の間にいて、昨十六日、日曜日面会いたしました。実にようございました。隆ちゃんは二十一日に立つことが、その前の晩の点呼のとききまったのだそうでした。電報うとうかと思っていたが、どうせきょう来るというのだから、びっくりさせる迄もないと思って出さざったと云って笑って居りました。去年会ったときよりは大分肥って大きくしっかりして、すっかり馴れた風です。班のものが皆可愛がってくれる由。ねえ、わかるでしょう? 可愛がらずに居れないところが隆ちゃんにある、当然だと思いました。只おとなしいなんかという受動的なのではないから。やることバリバリやっちゃる、そういうまけん気と、一種独自なやさしさ、おとなしさが伴っていて、本当に私だってかわいいと思うのですもの。昨日は最後の外出で、六時まででした。曇り天気で、お母さんと私とはどんな土砂降りになってもいいように雨合羽を着て、下駄に雨傘といういで立ち。広島の相生橋というところで降りて、桜の咲いている一寸した土堤から下へおりて連隊へゆき暫く待っているとすっかり外出の服装で、長い劒を吊った隆ちゃんが出て来ました。昨夜から一等兵になった由、星二つついている。十時すぎでしたから、ずっと西練兵を突切って歩いて、福屋デパートへ行って、先ずクレオソート丸や
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