ルスワージの小説。ヨーロッパ大戦の時のことで、あれこれだと骨折った甲斐がなくなるから。それに小説でない方が、ものをかく人間には却ってよいし、語学の点から云っても。
 この間、何かの雑誌の五行言のようなところに、矢内原氏が「現代は波瀾きわまりない時代であるからこそ、自分は一層永遠なるものに心を向けようと思う」という意味の言葉を云ったのを志壮なるものとしてあげていました。そのとき、永遠なるものとは何であろうという気が閃きました。感心している人は文句に魅せられたのでしょうが。歴史性は、絶えず変ってゆくそこに歴史性があるというような本質でつかまれた上で見ると、云った人の基督《キリスト》教精神や感心したものの心に求めているものの質が明らかに描き出され、面白い。動きの裡でその関係、その矛盾を生ける姿でとらえている点では貨幣についての著者が、作家に教えるものは実に甚大です。お手紙に早寝と書いて消してあります、笑えてしまった。

 三月三十日 〔巣鴨拘置所の顕治宛 目白より(封書)〕

 三月三十日  第二十七信
 きょうは何と上気《のぼ》せる日でしょう。六十八度です。気温よりあつく感じます。机の上の、小さいけれども本もののマジョリカの壺にアネモネをさしておいたら、けさの蕾が見る見る開いて、満開に近くなってしまいました。
 さて、うちのこと、てっちゃんのことづて、きいて下さいましたろう? あれから怪しき者も現れず、炭俵も安全ですから御安心下さい。ひささんは今夜かえります。こういう思いをするにつけて、本当にそちらの近くに堅いいくらか静かなアパートがあればよいと思います。最も実質的に考えて生活を合理化することは、真面目に計画されるべきことであると段々わかってきます。〔中略〕
 いつか、去年のうちであったと思いますが、あなたが、生活のやり方について、無理して家を一つもつなんていうことを考えず間借でも何でもしてやって行くのが本当だから、と仰云ったことがあるのを覚えていらっしゃるでしょうか。そのとき、私は、それはそうだが、とわかってもどこか情けないような気がしました。そういう心持はなくなって来ています。新しい周囲が生じるのもよい、そういう興味もあります。生活がぐっと単純化することから違って来る気分もあり、そのことがどう自分に摂取されるだろうかという期待もあります。四月十日頃になると、移動がは
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