四日も休日になります、つづけて。日月火水と。四月にも二日つづくお休みが一二度あるらしい。この頃は小学生のよう。お休みの日がつづくと、その間に宿題どっさりやろうといきごみます。土曜日から本もって帖面もって、国府津へ行こうかしら。そしたらお客は来ず随分よくばれる。国府津にはもうあの重いような春の風が吹いているでしょうか。これは今フット思いついたことです、プランというほどのことでなし。実行には又留守番だの何だののことがありますから。こう書いているうちに行きそうもない気がして来てしまった。国府津のバスもこの頃はきっと間をおくでしょうし、ハイアも、もう五十銭ではないかもしれませんね。目白新橋間のバスはずっと豊島園の方まで延長しているのですが、このごろいくつか止らないところが出来ました。鬼子母神の近くの高田本町というのはとばしてしまいました。国府津へ行ったりする費用で、私は一枚そちらへゆくとき着る春らしい着物をこしらえましょう、どうもその方がいいらしい。春らしい、生活の心持のいくらか映った色の着物を。瞳も春の色を映していいでしょう? そちらへゆくときこそ、私は一番おしゃれしていいわけですもの。おしゃれ(!)のこと思うと私はふき出してしまう、茶外套の頃を思い出して。女の心持で云ったら一番おしゃれしそうなとき、ちっともそんなこと思わなかった。そんなこと思わないほど心持が一杯であったし、あの時分の一般の気分もそうであったし、面白いものね。このことや思わせぶりがなかったいろいろのモメントを考えて、いつもよろこばしくいい心持です。仕合わせを感じます。仕合わせというものの清潔さを感じます。そして、今、花の一茎もかざしたい、その心持も、やはり同じ自然さの一つの開花でしょう。あなたに自分の好きなものを着せるうれしさ。眺めるたのしさ。自分のために一寸おしゃれした気になって大いにはりきっているのを御覧になるおかしさ。
ロスチャイルドという古い映画ですが、イギリスの名優がやっていて、傑作でしたが、ロスチャイルドがいつも事務所に出かけるとき妻がボタンホールへ小さい一輪の花をさしておくります。市場などで、ちょいちょいその花の匂いをかいで、気の休まりを得ている。丁度ナポレオンに金を出す出さぬで猶太《ユダヤ》人であることからひどい罵倒をうけるが、人類の不幸のための金は出さないとがんばり通して市場へ行くと、
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