もりのようです。そうすれば私とは暮せない。私はここよりもそこから遠いところへ移ろうとは考えないから。それにピアノ! フー。実にフー。自分がひくときは勝手なものですが。私は下手だから平気だ、と思っています。
戸塚のター坊が小学の一年に入ります。お祝いに靴。それからもう二人女友達が結婚します。それにもお祝。そのひとたちは社交的な意味でなしに私たちから祝われたいの。又おひささんに私は昨夜も冗談云って笑ったのだけれども、おひささんの良人になるひとから私はよっぽどありがたがられていいと。そうでしょう? 例えば、どんなに御亭主の云いつけは守るべきか、という実地教訓を身をもって示しているのですもの、そして、そのためにおひささんだって居睡り時間が減ったのですものね。
瓶《かめ》の薄紅梅、もう満開をすぎました。散りはじめて、火のない火鉢の上にのせてあるナベの水の面に花弁が二片三片おちて居ります。
今夜、ねずみ退治をやります。いやな鼠! 私たちは退治なんかきらいだから、いい加減にすればいいのに。人参をかじり、夜中目がさめるほど戸棚をかじる。ポチは鼠をおどかす役に立たず。
梅の花の匂いはいやではないが、つよすぎました。二十三日には鉢でいいかしら。それともまだ満員でしょうか。
貸家のなさ。きょうの朝日の裏の広告など、売地、売家が一杯で貸家三四軒です。
○今そろそろ五時になろうとするところ。豆腐屋のラッパの音がします。ヘッセの「青春は美し」という小説をよんでいます。訳者からおくられて。この作者の作品もロマンティストとして或美しさはもっているが、どうも。ペシコフなども若い時代随分当途のない旅をしたけれども、そして十分ロマンティックであったが、ヘッセのようにそのような旅そのものが目的でなかったから随分ちがいます。
きょうは暖いことね。珍しく足袋をぬいでいます。今年はじめて。暮に茶の間の畳新しくしたことお話したでしょうか。いい正月をしようと思って、心祝に茶の間の畳を新しくして二日目か三日目に盲腸を出してしまった。新しい畳は素足に快くふれます。
私たちの白藤の樹ね。あれをちゃんと手入れして美しい花を咲かせたいと思います。今では野生にかえっていて、ほんの一房まるでちょこんとした花をもっただけでした。林町で、庭の隅っこにいる。樹としては大きくなりました。この庭には入らないでしょう。来週は
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