それはよかったと云って頂きたいから。そして、少しずつ毎日書いて、そっちへの往復の道々もずーっと考えつづけて、書いたというのも第一のうれしさです。私はもうこれからは、いつもそうして書いてゆく決心なのですから。第一回が、自分としては腰をおろして、調和の感じで試みられてうれしい。私のそういう心持を考えていて下すって、励して下すって、本当にありがとう。(きっと云いたいことも、マアあとにしようと思っていらしったのではないかしら。いつぞやのようなお目玉を拝見すると、私は小説どころではないのですものね、全く)先ず御礼を。あらあらかしこ。それにつけても思うのは、薬のききめです。何というよい効果でしょう。これは最も厳粛な意味で考えられ、この間の晩は去年の苦しかったこと、その退治。そして薬のみつかったよろこびを考えて涙をこぼしました。そのような薬にありつけるかどうかということは、つまりは諸原因についての態度がはっきりしての上のことですから。まだ亢奮していて、それが自分にわかります、一寸休憩。
 さて、きょうは三日。三月三日、おひな様の日です。
 けさは、機嫌よくよろこんで下すって、全くの御褒美でした。ありがとう。こういう風にして追々いろいろと長くつづく仕事もしてゆけると楽しみです。土台私は、決して夜ばかり好きとか、夜の方がよくかけるとかいうのではないのよ、その点では昔から、静かで明るい昼間を実に愛して、仕事して来ているのですから。どうぞ御安心下さい。
 あれから大阪ビルへ行ったら、その廊下で先達って一寸お話していた大井という弁護士の事務所を見かけました。
 大阪ビルから電車で三省堂へゆき、そこで和英コンサイズを二冊買って、速達に出せるように包んで貰い、松田という人の和露も見ました。この和露は殆ど只一冊の信用出来るものだそうで、専門家も八杉氏のロワとこれとを並用している由です。二冊と[#「と」に「ママ」の注記]和英というのは光子さん夫婦への送別品です。一人で一冊はポケットに入れておかないと心細いのですって。この四日(明日)立って、四月一日にニューヨークにつくそうです。エイプリル・フールにつくのね、要心なさい、とからかったら、光子さんは正直者だもんだから、本当だ、やられるかもしれないね、と目玉をキョロリとさせました。六ヵ月いるつもりの由。それで 400 ドル。これは日本の金では千六百です。
前へ 次へ
全383ページ中77ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
宮本 百合子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング