ちにこめられているあなたの御心づくしと努力と忍耐とを、ありがたいと思わざるを得ません。今年は花も実もある暮しが出来そうですね。去年のうちに相当耕された土地に、本年はやさしい肥料がいかにもたっぷりという感じで。そして、それがどんなに必要だったでしょう。どんなによく作用しているでしょう。どんなに、それなしには伸びられぬという種類のものでしょう。その程度の深さ、おわかりになるかしら。楽々として、而もたゆみなく努力してゆくことにある愉しさ。それでなければ仕事など出来ない、単なるむこうっ張りや力こぶを入れた態勢では。いろいろのことから次第に奥ゆきのあるところまで生活がたぐられてゆき、それに準じて足どりも進むところは興味つきぬものがあります。二人の生活が血行よく循環して、現実的に豊富化されてゆくこと。歴史における意味についての理解から来る全面的な肯定が、初歩の時代に(生活の)ややロマンティックな光彩を添え、それはそれとしてやはり当時における真実であったのが、追々成熟して来て、結ばれかたは一層ときがたいものとなり、生活の成果も現実的に強固の度を増して来るという推移は、実に実に味が深い。一つ一つの段階がふっきれてゆくには時間がいるものですね。よい薬をたっぷりと体にしまして、私はあなたの数々のグッド・ウィッシェズに応え、枝ぶりよい花や、つやのよい実を生んでゆきたい。はい、これが一つ。それから、はい、これが一つ。そういう工合にね。よろこんで下さるでしょう。そして、どんなにホーラ御覧と、おっしゃるでしょう。どんなにそう云われても私のよろこびも大きいから、きわめて気よく、一緒になって、本当ねえ、と感服をおしみません。
 小説は、ふかく生活にふれたものにしたくて本気です。どうかおまじないを。小さくても、私としてはこれまでと全くちがった条件(生活の)で書いているのだし、気持も或掃除後のことだから、作家の勉強のマイルストーンとしては決してどうでもよいものではない、そう思って居ります。生涯には外見上目立たなくても本質的にそういう作品があるものだと思われます。例えば、「一本の花」。あれは「伸子」からおのずと出て、然しまだ当のない成長の欲望が語られて居るように。
 武麟は、純文学が生活からおくれてしまうかもしれない、と云っていて、そのことを直ぐ彼らしき文学の方向に暗示しているが、純文学を最も健全な意味
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