的な自覚で改良されてゆきましょう。やっぱり体のため、というようなことからだけではモーティヴが強いようで強くない。仕事を割当てて見て、その必然が身につく方がたしかだし実質的です。ユーゴーまで! 実に笑ってしまった。だってね、ユーゴーが六時、十時と壁上にかいておいたのは何故か御存じ? あれは、決してそれが実行されず、何しろ当時のパルテノンで、徹夜して当時の文人が集ったから、それへの武装的布告だったのですもの。ユーゴーもまさかにその銘がここでこのように語られていようとは思いもよらないでしょうね。何と面白いでしょう。パンテオンのユーゴーの墓は立派でした。
読書のこと、きょう話に出た通り、何か仕事をしている間は、と云ったらきりがないということは本当です。それではいけないと思います。それに、出勤との関係で、急にキューキュー仕事をするということより、一日に少しずつ割当ててやってゆく方法をとらなければ仕事としても長つづきはしないことが明白になりましたから、来月からはキチンと実行して見ましょう。本月中は御容赦。
この頃は虫も退治され、栄養も心身ともによく薬も実に活力の源となるききかたをしているので、きっちりとして、而も収穫的に暮してゆこうとする努力がたのしさを伴っています。小説をかくにしろ、夜昼ないようにくいついて短時間に書くのではなく毎日毎日一定数だけ(五枚か三枚)書きためてゆく愉しさ。よっぽど昔、一番はじめの小説を、女学校に通いながら書いていた頃のような書生っぽさ、そんなものが甦ります。そういうようにして小説も書けてゆくというところに、小説そのものとしての新しい意味もあり、書く意味も生活的に深いわけです。私は、前便で書いたように、若いときからすぐ専門的生活に入って、その旧習にしんでいたから、或時期以後、生活の形が変り、動的要素が殖えて来たら、そういう面が不馴れで、精一杯のところで、そういう生活全体をひっくるめて掌握して仕事をどしどししてゆくという実力が欠けていた、今ごろ、はっきり其がわかります。文学の上の仕事ぶりそのものに一般的にある旧態(世の中一般のことよ)は、私の身にもついているのですから。現在、私たちの生活の条件が、私の心にある自然な要求に結びついて、こうして徐々に徐々に私の生活能力を高めつつあるということは、つきぬ味があります。遂にそこに到達しかけているということのう
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