部屋もゆったりとってあって、その代り室内に洗面の設備などはありません。
 ずっと風邪もおひきになりませんか、読書の材料は本当に相当なものですね。ヴァルガのは二冊でしょう? インドの本はいつか見て目についていた本です。明日繁治さんがゆきます。そして、七日か八日には寿江子がゆきます。私は七日ごろ家へかえると思いますが、外出はすこしおくれるから十五日ごろおめにかかれることになるのではないかしら。殆ど一ヵ月ぶりね。顔だけ見てはどこも変っていなくてきっとおかしな気がなさることでしょうね。

 一月四日 〔巣鴨拘置所の顕治宛 慶応大学病院より(絵はがき三枚 (一)[#「(一)」は縦中横]同病院正門、(二)[#「(二)」は縦中横]同病棟大廊下、(三)[#「(三)」は縦中横]同全景)〕

 (一)[#「(一)」は縦中横]この門が信濃町に面した正門。つき当りの自動車のとまっているところが病棟の正面玄関です。この玄関を入ると、子供の群像が一つ立っていて、その正面後のドアからい号に入る。左手に(ドアの手前のホール)二階へ上る階段があって、そこからい号の上へあがるようになって居ます。上ってゆくと、休憩室のようなホールに出て、その窓がこのエハガキの正面に(二階)三つ並んだ大窓となって見えます。もといたのはい号の左側。エハガキの左側の植込に面した側。今は右側。内庭に面して居ます。

 (二)[#「(二)」は縦中横]ほ、だの、と、だのという字の札が見えるでしょう? これはずっと奥の耳鼻などの病棟。逆にずっと玄関の方へ出てゆくと、一番はじめに、い、があるわけです。内科は、は、です。※[#丸い(○の中に「い」)、16−2]は急な場合、科によらず入れるところ。ですから小児科もとなり合わせで、少なからずやかましいようなこともあります。きのう(三日)はじめて午後すこし歩いて二階の休憩室まで行って見たら、ラジオをやかましくやっていて、閉口してにげかえりました。おしるしの初雪でしたこと。

 (三)[#「(三)」は縦中横]手前の木立は外苑ですね。大きく見える玄関は外来の玄関で、その左奥に信濃町に面して、私たちの入口があるがはっきりしないこと。外苑から出て省線の上にかかっている橋をわたった左側の白い一かたまりは別館でしょう。別館とこちらの建物とは長い地下道でつながれて居ます。別館から又はなれて見える一つが食糧研
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