殆ど元のとおりですが、左の方をすこしわけるようにしてかきつけることにしたのです。そしたらまんまるい顔がすこしたてに長めになり柔かみもつきよくなりました。これもお祝のひとつかしら。
 こんど島田へ行っても、もうお母さんが、何とかもうすこしゆるめて結えないかしらと仰云らなくてもすむわけです。書きながらクスリとしているの、だってあなたはきっと一目で何だかユリの顔だちが変ったようだとお思いになるにちがいないが、それが櫛の一つ二つの使いかたの変化だとは、きっとお気付にならないでしょうから。きっとこの手紙をおよみになってから、フーンそう云えばすこし変ったかなぐらいのところでしょう? つまりあなたがおかきになるようにかきつけるわけです、はじめ横に、それからずっと上の方へ。秘密はたったそれだけ。
 さっきハガキが来て絵かきの光子さん夫婦、三月四日立ってアメリカへゆくそうです。アメリカでも見ないより(博物館等ボストンなど)ましでしょう。が、率直に云わせると淳さんコンマーシャライズしないかと些か心配です。絵のモーティブが私にはわからないようなものをもサロンの飾りとしてかいているから。子供はお祖母さんにあずけて。お約束の十日までの計温を。
  二月一日――十日。
   起床    計温  消燈
一日 七時半   六°[#「六°」は縦中横]  十時
二日 七・一五  六・三 十時半
三日 八(目をさましてから三十分ぐらい)六・一  十一時十五分位
四日 七・二五  六   九・三〇
五日 八(〃 ) 五・九 十時四十分
六日 七時十分  五・八 九・四〇
七日 八(〃 ) 六(これは夜十一時会からかえって)十一時
八日 八     六強  十時
九日 八     五・九 十時四十分
十日 七時二十分 五・九 十時五十分
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◎こうやって手帖を出して写すと、一つの希望を生じます。いつかは、これを書かないでもいいという位になりたい、と。
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 二月十三日午後三時
 今、おひささんがお客様のための皿小鉢を洗っています。私は指図をしておいて一寸二階へ上って来たところ。さっきシャツのボタンをつけ小包にこしらえながら、もうすこしで声を出して笑いそうな気持でした。今もそう。きょうは、あの万年筆を見て頂こうと思うのが一杯でそのほかいろんな云う筈だった文句を一つも云
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