わずに来てしまったのが如何にもおかしい。何だかあなたも笑えるような御様子でしたね。ユリのとんまなような、一心なような、滑稽ぶりを見やぶられたらしいと思います。
きょうは、皆が私に御褒美をくれるのですって。心からの御褒美をくれるのだそうです。大変にうれしいと思います。こういうことをされるのは初めてだから、私のためにみんながどこか私の知らないところでいろいろ相談して、呉れる人たちもよろこび勇んで、きょうを楽しみにしていて、サア、と呉れる御褒美は本当にたのしみです。虫退治も功徳を伴ったと笑えます。何をくれるのでしょう? 見当がおつきになりますか? 何でしょう。これこそその場にならなければわかりっこなしです。二人であけて見ましょうね。何か物ですって。
二月十五日
全く思いがけないおくりものでしたね。私は簡単に自分の誕生日と考えていたら。はじめ坂井さん、てっちゃんが来て、七時になってもほかの連中は現れない。もうおなかがすき切ってしまって、ポツポツおなべをいじっていたら、戸塚、昭和通、重治さんと一隊が入って来て、部屋の隅に長い丸い棒のようにまいたものを立てました。おや、とすぐなかみがわかったがそれでも私は意味は分らなかった。ずっとあとになってわかって、さてその絨毯をひろげて、うれしさが急にあふれた如くでした。お金は三十三円ぐらいで、そのうちで今絨毯を見つけようというのだから重治さんも大分苦心した模様です。ついに三越で見つけた由。掘り出しものです。そういえば、いつか家具部を歩いていたとき目にとまった色の調子だがねだんを見ようともしなかったものです。日本の家とよくつり合う、東洋風のうす茶、碧、黄、白の配色で本当にきれいです。三畳ぐらいの大さ。寿江子がスケッチ、エハガキにしてくれます。本当にうれしいわね。でもどこに敷きましょう。二階は椅子とベッドで畳はやっと一畳ぶん空いているきり。茶の間はおひささんが火をこぼし水をこぼす可能があるから惜しい。結局四畳半でしょうか。もし新しく家が見つかって、そこに八畳の室があって、勉強机とベッドとの間にそれをのばして、その上にねころがったり出来たら本当にうれしいこと。私たちはよく毛布を畳んでカーペットをこしらえましたね。そしてその真中に机をおいて。この絨毯の上には、あのお婆さんのくれた卓をおくとすっかり調和します。ふかふかとしたところに坐布団をお
前へ
次へ
全383ページ中55ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
宮本 百合子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング