血脈を否定して、志村と対立するものとして創り出した駿介を、作者があらかじめ枠をつくり各コマを区切った局面と心理との間へ、無理を押し切ってつめこんでいるところに、一般の読者を満足させなかったものがあったのは当然でしょう。
駿介が志村に反撥した時代、自分のからから動き出した原因、それらは極めて曖昧であり、現実に駿介のような存在は、尠いでしょう。作者は用心ぶかく駿介が耕す畑やなんか持っている条件を、そういう条件を皆持っていやしないという批評もあろうが、と予防しているが、どうしても、駿介が近頃文学にも流行のインテリゲンツィア無用風のタイプから、どうぬき出ているのか分らない。田舎の生活のこまごましたことはしらべてある。だからそのくっきりしたところが、真実のテーマである人間の動きの拵えものとの間にギャップをつくり、あの作品の不自然な観念と現実的細部との間のギャップの見えないものには、人間の非現実性を覆う作用を営んでいると思う。人間の本当の生活というものの考えかたも変です。田舎の現実と云う点でも、例えば駿介の親父のようなのは或意味で哲人であるし、周囲の村人たちが、大学を中途でやめて来ている駿介に、
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