]えば、鴎外の『妻への手紙』が杏奴の解説で出ましたね。いつか、愛子夫人が蘆花の家信を自分のと一緒にして出したが、ああ主観的で、あくがつよいばかりだと、第三者は、性格研究のためにでもない限り益をうけることは少い。前田河の『蘆花伝』はその主観性の中に伝記者までたてこもったものらしい。そういう評が何かにありました。近頃岩波で出している新書のうち、あなたはどんなのをお買いになるかしら。私はクリスティーの『奉天三十年』『支那思想と日本』『家計の数学』(これは家計の方に目をひかれたのではなくて、私たちが、キライナモノとされた数学というものを、生きた姿で見直したいから。)サートン『科学史と新ヒューマニズム』『妻への手紙』(鴎外)『戦没学生の手紙』等です。興味があったらポツポツお買いになりませんか。そしてお下りを頂戴。又袋に入れて持って歩いて読みます。『猶太人ジュス』をよみ終り、こういう小説(ローマ皇帝下のドイツの小公国を背景として)をかいた作者の心持、そして「旅行記」をかいた作者の心持、今一人の書記官の死に対して十億マークを全国のユダヤ人に課せられていることなど思い合わせます。
 あの袋も、あながち
前へ 次へ
全473ページ中379ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
宮本 百合子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング