オた或夕方、「御免下さい。」おとなりの細君が玄関に来た。福島の白河辺の人というふれこみです。良人に死なれて十八九の娘を頭に三四人子供がいる。美人です。だが、私には良人に死なれたという生活の感じが来ない。誰かが世話している、そういう感じ。身ごなしにしろ、万事。その細君が「失礼ですが、お宅のお家賃は、おいくらでしょう。」「三十三円です。」「マア、私のところ、これまで四十二円ですの。こっちの家より二階が一間多いだけぐらいの相違です。」白蟻が畳をくったのですって。いかにも風通りがわるい。云々。その他沢山の苦情をあげて、「マアほんとうにね、ホホ……」と笑って、さて申されるには、「うちの晃博(中学生の息子)に、おとなりの小母さまのところへ行って、こちらととりかえて頂くようにお願いして下さいよって申しましたら、そんなこと云えないって云うんでございますよ。」私は大いに笑ってしまった。ハアハア笑って、「それは仰云れない方があたりまえですね。」と、又笑ってしまった。女子大を出ているという自己紹介です。アメリカに行っていたと。昨今の傑作笑話の一つです。戸塚の夫妻が、生活を新しくするために、一つの家に生活する
前へ
次へ
全473ページ中310ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
宮本 百合子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング