た、ではお目にかかって、又いろいろ。よく風邪をおひきになりませんでしたね
三月一日夜 〔巣鴨拘置所の顕治宛 目白より(封書)〕
三月一日 第十信。
きのうも今日も夕方から風が出たが、いかにも春めいた日でした。うちのひさはすっかり上気《のぼ》せて、それも何だか春めいて見えました。
きのうは久しぶりでお会いして、あなたの着物の召しようがくつろいでいたのが目についた。三月に入ると火の気のないところの大気は本当にちがってきますね。やがて夕暮が美しい薄明になって来る、そしてエハガキの色どりが奇妙に鮮やかに活々《いきいき》として来る。今年は季節のうつりかわりが沁々感じられて、ああ春になったとよく思います。
きのうは、うちの話が中途でポツンときれてしまいましたから、先ずそれをつづけましょう。前便で大抵書いたと思いますが、家はなかなか簡単にかわれません。アパートなども一応考えるが、謂わば往来を区切ったようなものでね、ドアをあける。それっきりではこまります。雑多な人間のいることも種々不便です。アパートは考えられず、林町の離れは前の手紙に書いたようなわけ。夏まではともかくここに居ます。交通
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