坂のお寺だったので、かえりに林町へよったら、国男へ本を送って下すったのが丁度届きました。テーブルのあのひとの席にちゃんと飾っておいて、わきから首をのばして開けるのを待って見たら、あれはいい本です。欲しいと思っていたし、国男の常識をひろくするによい本だから、およみなさい、きっとおよみなさいと申しました。この著者の『数学教育史』も面白いでしょう。寿江子についてもありがとう。私はこの子をすこしたすけてやって音楽史の仕事をまとめさせてやろうという計画があります。音楽史らしいものは殆どないのだから。島田へ送る本のこと、承知いたしました。
 住居のことなど、なかなか動けません。栄さんと共同にやることは不可能ときまりましたし林町の裏は、私として、寿江子の家を無いようにして自分が住むということは出来ませんし。格別な智慧も出て居りません。
 この頃の暮しを利用して体を丈夫にしようとしてお客でもないときは必ず十二時前に寝るようにして居ります。朝もしたがって早く徹夜は今こそ全廃です。熱川からかえってから皆元気そうになったとほめてくれます。大家《オーヤ》さんが垣根と門の腐ったのを修繕させている、大工の音。あし
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