竄チている。鬼の踊をやっている。そこへゆれて来てユッサユッサ何千人かを詰めてゆれ出したら、女、子供が多いから忽ち将《まさ》に共鳴があがりそうに騒然として来た。するとどっからか男の声で「皆さん大丈夫です。おどろかないでも大丈夫です」と怒鳴り、舞台もつづいて、やがて、小さい子供の桃太郎が舞台へ出て来たら、何よりそれで安心させられたように落付きました。舞台だけ明るく、巨大な円天井にボンヤリついた照明の下に何千の黒い頭があって、ユラ、ユラ始まると、独特の感じでした。一軒の家の中だと家がつぶれても惨状という直感がしないが、ああいうところだと、すぐ人命の危険が迫ります。今朝の新聞で見ると、たった一寸五分程ゆれたのに。然し三陸の大地震以来の由。戸塚の達枝が高田せい子のお弟子なので義理の切符を買い、お久同伴出かけたわけです。中頃以後にやっと戸塚の一家と栄さん、さち子さん姑嫁の一行を見つけました。かえりに栄さん、私、ひさ、三人で数寄屋橋の先まで出て、お寿司をたべて、有楽町からかえりました。
 高田せい子の舞踊というのは初めて見ましたが、なかなか大変なものですね。つまり生活の内容、生活を貫いている音楽の感覚と舞踊というものが、溢れるように感じられず、大変考えてこしらえている。或文学的内容はあるのだが、舞踊として、音楽がおのずから肢体を律動せしめるような横溢がない。日本の生活感情の中に音楽のよろこび、表現力が実に欠けている。それがじかに出ている感じでした。
 私は、そんなことを次々に感じながら、それらの感じは小波のように感じて、きのうは一晩じゅう、あることを思って居りました。きのうの朝手紙を頂いた。その終りの部分が私につたえる感情を。あの部分は、何とあなたらしいでしょう。心持の篤さ、繊細さ、そして明確さに於て。あの部分は無限のぬくもりと勇気とをつたえます。文字から声が聴え、そして、終りに、「ね、そうだろう」と私の背中に与えられる掌の感じまでこもっている。私たちの生活への愛と思いやりとが心にとまって、くりかえしくりかえしそれを思わずにはいられなかった次第です。
 確にここで云われているような場合というものはあるわけです。私は確にばつのわるそうな顔付もしますし、赭《あか》い顔になるのを自分で感じることもある。しかし辛さと感じられる感情は、私としては謂わば外部的なそういう条件が、その場で現れている形に対してというより、その条件がもっと影響している微妙なものが原因で苦しかったり辛かったりするように思えます。二十四時間が私たちにあれば、その内容は実に豊富流動的で、幅ひろく流れる情感のあらゆる面が、刻々にとけ合わされるでしょう。自由自在な表現があります。五分六分では全く集約的で、しかも最も重要な点にだけ集注するから、重要さが、いろいろ忠言的な性質をもっていると、その部分、その面、その点だけに焦点がおかれます。他のもっとひろい部分との釣合は、感情の背景としておかれる。そのときの声、顔つき、目差し、それが完全に翌日までの感情、気分の中心として作用する。おまけに私は子供らしく貪婪だから。窓が開く。いなや、眼でかぶりつくから。いろいろなよろこばしいものを吸いとろうと、ひどく慾ばって構えているから。日常的なことであって、而も決して、毎日毎日に馴れて、事務的反覆になっていない、心持が、ね。だから、そういう主観的な色調に対して、何だか辛く耳にきこえ、心臓を痛ましめる話の種類も、当然あるというものです(話さざるを得ない現実が在る以上は)。きっと、私はそういう情けなさそうな、それでいてがん張っているような顔も可笑しくすることでしょうね。こみ上げて来るものを、それなりの言葉でましてや動作で表わされないのですものね。原っぱを歩きながら、自分の主観的な感情から一応はなれて、云われた言葉について考え、その真の意味を理解し、それを自分の心の裡にあるものとの関係で考えて、判断して、腹に入れる。それだけの精神的過程を常に経ます。それが原っぱを横切る間で終るときもあり、又バス、電車、そして欅の葉の落ちる道、家、二階、遂には床の中までつづくことさえある。
 手紙で率直にならざるを得ないと思います。言葉では時間さえないのだから。そして、生活を大切に思う心持は、そういう点でのひっこみ思案というか拘泥をはねとばして来ているのではないでしょうか。私の気持では、私たちの生活の全感情が公開的な本質だと感じられてもいます。うけとる方にとっての辛さは、やっぱりこんな小さい紙片一枚ということから主として生じるのでしょう。
 でも、いいわ。私は余りそういう点ではくよつかないで、生活の条件として大局からつかんで、とにかく掃除だの勉強だのを、元気に、熱心に、美しい単純さでやって行きます。そうすれば結果として、大小様々の
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