《まも》りとなったということ、そういう地位や年齢に厚かましくなり切れなかった心を、私は二様の点から忘られないわけです。
 我々の生活の意味の大切さ、与えるところの無形の深さを、重い責任とともに痛感しました。(このことはこれまで一度も書きませんでしたね)技術家並に経営者としての錯綜した社会性についていつかあなたも書いていらしたその通りです。だから、この上なく愛しながら一緒に生活出来なかった。
 今の人は、時代の性質に応じて、質はずっと低下して居り、形式上現代の徳義を破らなければ安心していられる。或生活面のテクニックでは先行者の技術を学びとっているわけですから。
 人間が真面目に成長を努力すれば、条件としてその過去の在りようを十分にはっきりさせなければならない。その場合、主観的に語られる方と客観的に評価される方とあり、例えば私が最初の小説を書く頃から、自分の環境的なものに疑いをもっていたこと、追々一方の社会的経済的生活が膨大になるにつれて、そのギャップが甚しくなり、自分は一生懸命にその中から健全な新しい要素として生育しようとして来たという主観的な自覚は、それだけで肯定され得るものではない。客観的な達成から見られて、その主観的なものも評価されなければなりません。
 客観的に不十分であり、怠慢があると云われることを、決して私はこわがってもいず、又あくせくして陳弁これつとめようともしない。けれども、客観的に在るところまでは、その線をはっきり自他ともに確保した上で、更により高い進展のために一層努力されるわけでしょう。こう書けば、そんなことはわかっているよとお笑いになるかもしれず、又、それがなければ土台出ない話だとユリの頓馬ぶりをお感じになるかもしれないと思う。けれども、お前もその一族という風に焦点をおいて云われると私は辛い。堪えがたいようなところがあるのです。
 いつかよっぽど前の手紙に、ユリは毎年どこかへ行って暮したのだろうから云々とあったとき、生活の細部というものはわかり難いものだと思ったことがありました。私は二十歳位から折々家族と暮したが、何年も一緒に暮したことはなかった。この三・四年ぐらいちょいちょいすこし長く暮したことはなかった。
 今度のことで、私がルーズな結果になったのは、親密さの余りというより、見きっていたところがあった。あっちの生活、自分の生活、その間に本当の血脈は通っていない、それをつよくつよく感じていたために、或意味での不親切があり、それが、自分の生活感情に或点での究明追求の放棄となって作用していたと思います。ルーズさを十分認めるとして、私にはそういうように思われている。近似性や類は友を呼ぶ風なものであったとはどうしても思われない。迂《う》かつであったということには私の敬して近づけられていない或点からもある。(よいことではないが)
 月曜日にお会いして話が出たとき、私はいろいろを尤もと思い、念を押して、仰云ることはすぐやることにしているが、この次までには結果はもって来られないからと云ったとき貴方はゆとりをもって、「ああそれはそうだよ、考え甲斐のあることだからよく考えてやるといい」と云って下すった。
 二日の後に、そのつづきの気持で行って、あなたの方の気持のテンポと呼吸が揃わなかった上、何か私をもひきくるめて感じていやな心持らしいようでもあり、私としては云いつくせないことがどっさりのこった感じだった次第です。
 あちらの家へ行くことは月に二度ぐらいです、大体。狭い言葉のつかいかたでごくそばの日常的接触としての環境というような風に云われて、ぴったりしないということもおわかりでしょう?
 私はあなたに、私と家族との間にある心持の実際のありようと、私が客観的にルーズとなった内部の事情とをわかって頂きたいと思います。隆ちゃんやお母さんの御生活に、暖い近さを感じている反面には、そういう質的な不一致が一方に感じられているからでもあるのです。
 私が只いろいろ考えているからというだけで或一貫性を生じ得るのではないと思う。頭だけの問題では決してない。最も複雑微妙な生活的蓄積の上での決定的な選択と評価とが心と体とを貫き流れているからこそ、好きという一言に、全生活の歴史の方向がかかっているのだと信じます。性格としては同じだが考えがあるからなどというような根の浅いものではない。考えなら或は変るかもしれないではないでしょうか。それは体質的近似があるように心理的な多くの共通性をも与えているだろうから、一般的に似たところがないとは云えません。それを警戒しなければならないということもわかる。けれども、似ているからぐずぐずになっているのでは絶対にありません。
 今度その解決にとりかかっている問題は、私という人間の鍛煉のためにも多く役立つことですから
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