j」は縦中横]ナポレオン以後の戦争史、クラウゼウィッツの再読、陸軍省の操典等、地図と対照してやります。
(五)[#「(五)」は縦中横]文学、芸術では読み落してある近代的古典をやりましょう。
 〔中略〕時間の振りあいの度合いを仮に比率で表せば、(一)[#「(一)」は縦中横](二)[#「(二)」は縦中横]が四、(三)[#「(三)」は縦中横]が三、(四)[#「(四)」は縦中横]が二、(五)[#「(五)」は縦中横]が一の割合です。
[#ここで字下げ終わり]

 八月十九日 〔巣鴨拘置所の顕治宛 目白より(封書 速達)〕

 八月十九日  第四十三信
 きのうは、出てから池袋の駅でプラットフォームを間違えて、長いこと来ない方向の電車を待っていました。やっと気がついて別の方へ行って有楽町まで行って、用をすまして伊東屋であなたからの手紙を整理するためのスクラップを買って雨の降る人ごみの中を歩いていたら、ずーっと思いつめていたいろいろの考えの波の間から、段々にわかるよ、わかるんだよ、と笑って云っていらした貴方のいかにも確信のゆるがない顔や声や眼と、自分が赤くのぼせて貴方から視線を引きはがすことが出来ない気持、もっともっと云いたいことで喉がつまったような気分でふくれて立っていた様子とが対比的に浮んで来て、独特のユーモアを感じ、思わず胸の中を一抹の微笑が流れた。そしたら大変気分がひらけて来てすこし楽になった。
 昨夜は小さい蚊帳の外からさす電燈の灯を眺めながら、五時頃まで目がさめていました。さっき坂井さんがそちらに行くとよって呉れたところです。栄さんの(うちの)兄が入営が早くなり十月頃なのでいろいろ相談と云って出かけ、家じゅうに私一人。貴方に向って坐っている私一人。
 きのう、私の云いたいことが後にどっさりのこされたようになったにはいくつかの原因があると思います。
 根本的にあなたの示された点はわかっているつもりです。私のルーズな点と云われることについても私は弁解しようとは思いません。自分があらゆる点で統一された張りで生活したいと希望しているとき、その及ばない点がある場合、何故それがそうあるかと究明する必要はあっても、貴方に向ってああこうと説明するには及ばないことですから。
 私が俄に頬っぺたがカッとしたようなのは、(一)[#「(一)」は縦中横]ユリにもそういう性格が云々ということ、(二)[#「(二)」は縦中横]あちらの一家族という方へユリの在り場所を力点づけてあなたが仰云った点、(三)[#「(三)」は縦中横]ユリがいろいろ考えているからだが、もしそれがなければ云々。これらのことが私の心の中へ工合よくおさまらなかったわけでした。特に第二のことが。
 広い意味での環境として、ああいう家庭生活があるということ。而もユリの近くにあるということ、それは事実です。私がある時期そのうちに育ったこと、今日も或面での接触があるのだから、常にそれを客観的な見とおしで洞察し、まきこまれず、積極的な歴史性として作用してゆくだけの努力が当然要求されているというのも全くのことであると思います。そういうところで私が厳しさを欠いているということ、つまりそれが自分の生活感情のうちにあるルーズさとして、あなたが云われることも、私は自分の生活の成長のため、昨今は他から殆ど一滴もない養液として、ありがたく頂きます。
 元より、ユリのそういうやわ[#「やわ」に傍点]な面とあちらの生活のありようとの間には、連関がないことはない。ひろく、微妙な意味で。然しながら、その点を見きわめ、又とり出して見ることで、ユリというものをあの程度に、あっちの方へ力点づけた在りようで云われることは、当っていたでしょうか。
 書きはじめて、これはユリのこの十年の成果として文学史的価値を与えようと決心している長篇小説は、複雑な内容をもっていて、一口には云えませんが、ある一家族の歴史的推移を扱う場面の最も骨格をなすテーマは、父親である男がその人間的美質や技能にかかわらず、自分の属す社会の故に、極めて卑俗な生活面を持ったことを発見して、次代の者である娘が、父への愛、悲しさ、残念さの故に一層より合理的なものへの献身に進んでゆくことが、一つの歴史の性格として把えられています、そのほかいくつかの愛と呼ばれていて愛でない人間関係の究明とともに。
 丁度二月の初めのひどい雪の日、霏々《ひひ》と降る雪を小さく高い窓に眺めながら、激しい疲労ですこし気が遠くなったようになって横になりながら云いつくされぬ感慨で、そのことを考えた。
 ユリ子がああいう心持でああいう生活をしているのに(貴方との面です)、俺には云えないと云って詩を私にのこして亡くなった。私たちの生活そのものが、偽善的な意味でなしに、その人の人間らしい面にふれて、その良心の
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