しょう。
鶴さんの盲腸はおさまりました。私はあれを見ると自分の盲腸にも腹が立って、しきりにはと麦の煎薬をのみ、この頃はすこしましです。この間島田であんな無理をしたが、出なかったから。それに三共でうり出しているモクソールという注射液が大変によいそうで、これからすこしこの注射をやります、但注射なのでね。誰かにして貰わなければなりません。
栄さん夫妻、相かわらず、爽《さわ》やかに而して貧乏して居ります。手塚さんは島田へわざわざ達ちゃんの送別の手紙をくれました(前便で書いたと思いますが)
伝記が豊富な題目に溢れているのは全くです。実に豊富です。そしてそれをすっかり活かし切るようなものが書けるということの歓びは、決して単に箇人の才能とか学識とかの問題に止まらない。
御注文の本のリストの整理は、忘れずにやって置きます。
松山の方のことは島田からの手紙でもお判《わかり》になったことと思って居ります。そう云えば島田の家の井戸が改良されたことお話ししませんでしたね。風呂へ水汲みが厄介なのでコンクリートのタンクをポンプの上にこしらえて、こっちで水を入れておけばあっちは栓をあければよいようになって大した進歩です。
いずれ本人から手紙を上げるでしょうが雅子さんが近々結婚しそうです。対手のひとはまだ私の面識のない人です。細かい家庭のことも知りません。しかしそれで落付ければよいし当人はうれしそうにして自然な軟らかさを体に現しているからいいのでしょう。戸台さんも或は結婚するかもしれない。今年は結婚年のように皆が結婚するので、私はお祝いに忙しい次第です。
生活のやりかたについて私の分ったことをこのお手紙の中でも悦んでいて下すって大変うれしゅうございます。私は本来決して便宜的な人間ではない。又、食うため云々を、素朴に買いかぶるほど稚くもありません。土台、食うためになった作家なのじゃないのだから。世態と日常とは益※[#二の字点、1−2−22]各面から煩瑣《はんさ》になります。そして、私たちは健全な豊富な意味で益※[#二の字点、1−2−22]書生生活に腰を据えなければならないのです。歌舞伎座が立ちゆかず、やすい芝居をするようになるそうです。築地はハムレットを千田がやっている。ひさは姉が結婚して、農繁期になるのに田舎では雇う人手もないというので一・二ヵ月かえります。その代りにひさの友達で栄さ
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