んという子が来ます。この子とひさと二人で島田に行っていた間留守番をして居りました。ひさとか栄とかかちあう名はあるものね。但この栄はずっとしぼんで素質の小さい栄ですが。では又。この頃真白い紙はタイプライタアの紙しかない、何故かと思います。皆スジ入り。お大切に。

 六月四日(消印) 〔巣鴨拘置所の顕治宛 目白より(はがき)〕

 このハガキは差入についての走りがき。
 ※[#丸付き一、322−4]帯は夏だけもてばよいつもりです。あの方が軽くてすこしはよいかと思います。※[#丸付き二、322−4]二枚の単衣のうち、紺の方は、些かおしゃれの分です。もう一枚の方がいくら洗ってもよい分。二日にそのことを忘れて申しませんでしたから。紺はそちらで洗わぬこと。※[#丸付き三、322−64]ああいう下にはくものはいかがなものでしょう、暑くるしくあるまいとも思いますが、試みに。手紙はこれとは別。

 六月五日 〔巣鴨拘置所の顕治宛 目白より(封書)〕

 六月四日(白い紙特にこの紙は書きよい、タイプライター用ですが。) 第二十六信
 さっき十二時のサイレンが鳴ったところ。(この辺のサイレンは、学習院前の小学校で鳴ります。防空演習のときも)テーブルの上の寒暖計は八十度。つよい風。この二階はいきなり硝子で、それをあければフーフー吹きまくって勉強出来ず、しめれば温室的な欠点がある。すだれや何かでいろいろ加工してある次第です。下で寿江子の咳払いがきこえる。ひさはきょう国へ一時かえりました。代りとして栄さんというひさの友達が来ていてくれます。栄だのひさだのって、縁があるのね、とこの間は大きい栄さんと大いに笑いました。
 二日の日には、原っぱを横切って通りに出て、一寸林町へよって、上野の松坂やへ出かけて下着などを買いかえると、いねちゃんが待っていて、久しぶりに夕飯を一緒にたべ、いろいろ喋り十二時頃かえりました。あすこもずっと女中さんなしです。それでも幸、体も丈夫でやっています。私の留守にひさすっかり冬ものを乾しておいたので、昨日は貴方への小包を送り出してしまうと半日、入れかえをやりくたびれた。毛のものなど今年の冬はこれまでのようにないから虫にくわせまいとして。夕方ひさと栄、新宿に出かけ、寿江もいず、のろのろとして風呂をたいて入った。十時ごろから身の上相談のような訪問あり。今日はすっかり落付いて楽し
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