おける全体と箇との問題などが、今日新しい機械論として出て居るのなどは何と興味あることでしょう。
『タイムズ』の文芸附録が今度スコットランドの現代文学の特輯《とくしゅう》を出しました。歴史的な小説をかく婦人作家が二人いることがはじめてわかりました。スコットランドはその自然の景観から、独特なロマンティシズムをもっている由。では又。セルと単衣羽織をお送りいたします。お大事に。
五月二十三日 〔巣鴨拘置所の顕治宛 目白より(封書)〕
五月二十二日 第二十五信
きのうの朝、下へおりて行ってテーブルの上を見ると、三月十四日とした封緘がおいてある。三月十四日、三月十四日 怪訝《けげん》に思って手にとると封は開いてなくて、この間あなたが書いたよと云っていらした分でした。ひさが、「三月のがいま着くんでしょうか」と目玉をうごかしている。「そうじゃないよ、日づけを間違えていらっしゃるんだよ」と笑いました。
本当に久しぶり。そして、これを書くために私からのいくつかの手紙をよみ返して下すったということもありがとう。でも、この貴方の手紙は、或大きいことに心をとられていて、その心の一端をここへ向けて書かれているという調子があらわれていて、なかなか微妙です。そういう点も意味ふかい印象です。
私に下すった宿題は、力こぶを入れた答えをさし上げますよ、近日中に。この作品は仰云るとおり今日の生活の態度気分の上で少なからぬ意味をもっているものです。しかも純正なる批評をうけていないものです。大体この作者はその出発第一歩から、まともな批評をおそれるに及ばない、という条件から出ているので、独特な特徴をもっている。「僕の書くものが厳密に云えばなってないのを知っていますよ、しかしそれを突いて来る者はないじゃないですか」こう私に向って云った度胸のひとです。突いて来る者があっても判るものにしか判らず、その数は少いから平気なのです。まあこういう表現はこの位にしておいて、芸術上の問題としていずれ書きます。
泉子さんの体はいいあんばいにそれ程大したことはないそうですが、これまでの柏木の家は日当りわるく不健康なので世田ヶ谷へこしました。トマトの苗やなんか買って大いにやっている由。重治さんは市の失業救済の方からの口を見つけて日給一円三十銭で毎日通勤してナチの社会政策の翻訳をして居ります。世田ヶ谷から通うのは大変で
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