o の本をきいたところ、どこの支店にもなし。いつかついでに注文をしておいて貰うことにしておきました。けれども、これは大変時間的には当にならないのです。為替の関係で。そのときフォックスという英国評論家の『小説と民衆』という本を買いました。一九三五年以後の英文学、評論の変化を示しているものです。しかし、一寸序文を見たが、小説というものの存在意義を随分初歩的なところから主張して物を云いはじめていて、英文学における批評や評論の過去の性質というものを考えさせます。英文学における評論の伝統というものをすこし知りたく思いました。テイヌがフランス人であったということだけで、その面ではフランス文学の方が昔からすこし先を行っているのではないでしょうか。
牧野さんの本はお送りいたしましたが、スノウのも、私は大いによい妻としての心を発揮してあなたに先にお見せすることにして送りました。折角御注文のがないから、その代りに。十分その代りとなります。
十八日にはかえりに林町へよりました。久しぶりで太郎と遊び、国男にも会いました。このひとは、この間どっかの二階からころがり落ちて肋骨を痛め、名倉に通っていました。そしたら偶然糖尿になっていることを発見されて、すこし悄気ている。でも私はいいことだよいいことだよと云いました。すこしはそれでこわがって酒を減らせばいいのです。この前はもうすこしで片目つぶしそうな怪我をするし。
寿江子は熱川で山羊を飼っていると手紙が来ました。二十五日ごろ又一寸かえって来る由。
十九日は戸塚へ行っていろいろ話し、新宿のムーランルージュへつれられて行った。ここはいろいろ今日の社会相を笑いの中に反映していて面白かった。
鈴木さんのところへは明日行きます。そして万端相談いたしますから、どうぞそのおつもりで。
きょうは十時すこしすぎに、徐州陥落のサイレンが街じゅうに響きわたりました。達ちゃんの船はもう支那の近くにいるのでしょうが、どこにいるのかしら。ちょくちょく思いやります。私がそんなことを思いながらこれを書いている家の門には軒並みの旗が立っていて、物干しにはあなたの冬着が、名を書いたほそい紙片をヒラヒラさせながら干されている。
私は仕事に対する欲望が潮のようにさしのぼって来ているので、すこし肝のたった馬のような調子です。眼尻《まなじり》に力がこもって、口をむすんで。文学に
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