黷ニは知らずお風呂へ入れ申したから、ショックの起るすべての条件は完備してしまったわけでした。この位でお止りになったのはふしぎな位。
 御様子は段々私が来てから一週間であるが、その間にも気付かぬ位ずつ語彙《ごい》も殖えて来られ、長い文句を仰云るようになりました。しかし、うとうとしていらっしゃるときのイビキは病的ですから決して安心ではない。実に平安に、ソッとして保たなければならないでしょう。私が来たことは大変大変御満足で、お母さんが「もう思いのこすことはありますまい、顕治に会うたも一つことじゃから、のうお父さん」と仰云ると、首をうなずけて、「ない」と仰云る。そんな状態。お言葉は子供の片言です。障子を直したことはこの前の手紙で書きました。この位いるとほんとに家のものになれて私もうれしい。
 今も、あなたの手紙を懐《ふところ》に入れて、お母さんと背戸の鶏小屋のところ(十羽いる。七つ八つ九つと卵を生みます)に日向ぼっこしていろいろ台所を直すことや、とりこわした物置を又建てることやあれやこれやを話しました。あなたは蔵つづきの物置を御存じでしょう? あれをこの間とりこわした由。古くなってこけかかった
前へ 次へ
全235ページ中65ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
宮本 百合子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング