はこういうお見舞を考えていらっしゃらないでしょうから、さぞおよろこびであろうとうれしゅうございます。私は今二十枚ばかりの評論を終り、もう一つ夜終ります。

 三月二十六日 〔市ヶ谷刑務所の顕治宛 山口県熊毛郡島田村より(厳島紅葉公園と広島駅の絵はがき二枚)〕

 二十四日の午後三時のふじで東京をたち、ひろしま午前五時四十分、島田九時前でした。ひろしまから柳井線に入ったら、海と対岸の景色が珍しくて、目が大きくなったようでした。お家へ入って行ったら、中の間にお父さんが起きかえっていらっしゃるので、びっくりしたり、大安心したりでした。思ったよりずっとよくなっていらっしゃいます。ひる間、どっちかというとよくお眠りになるので、夜は御退屈のようです。気分も平静でいらっしゃるし、食事もあがれます。お母さんは相変らず御活動です。井戸がすっかりポンプになり、お店もさっぱりきれいです。

 晴、島田の茶の間。
 きょうは晴天、おだやかな日です。お父様は障子のそばへ床をうつし、今は座椅子によって上半身起き上っていらっしゃいます。上御機嫌。お母さんは、稲ちゃんがくれたウズラの玉子をわっていらっしゃる。隆ちゃん
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