うぬぼ》れではありません、決して決して。現実は錯綜して、困難で、もし私が自主的に生活に責任をもってゆけないのであったら、あなたは迚も心付きを云って下さるに暇《いとま》ないどころか、実際には常に万事手おくれであることになるのだから。でも、私は大体に、まだまだ貴方に勘でお心遣いをうけるようなアンポンがあるのね、そのことでは本当にすまないし、一方から云うと勘が本質的には的を外れないということが有難くうれしくもあります。
これは大変微妙な心持。このような歓びというのは。私は評論を、作家、人間としての洞察から現実に即して自由にかいて、或ことを云い得ている。小説でも、今どうやら一歩前進の過程にあるらしく、努力のコツとでもいうか、そういうものが会得されかかった感じです。現実を、その全体が立体的に活きて働くように書いてゆく、描写してゆく、何とそれはむずかしいでしょう。私は評論をかく上で体得したものを、小説で更に高く形象的に身につけようと意気ごんでいる次第です。私は、生れつきが小さい持味でまとめて、その人らしさだけで立ちゆくタイプではない、もっと違った何かがあって、それを全面的に発展させるためには自分
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