チぱりそれでもあなたにも分る我々のよろこびというものはあると思うの。抽象的に云っているがお判りになるでしょう。いろんな、文学的なおしゃべりや何かとは一寸別にして、この手紙を出したい心持があるのです。
私は自分の誠実さによってだけ遅々としてものを理解し、本当に会得してゆくたちの人間だから、あなたは良人としてある場合は少なからぬ忍耐をも必要とされます。あなたの忍耐の結果が必ずしも無でないところに私としてのよろこびもある。暑い最中に暑くるしいお礼をのべておかしいが、お互に暑さに堪えている折からのおくりものとしてはなかなかに新鮮なものなのですから、どうぞおうけとり下さい。
八月十日 〔巣鴨拘置所の顕治宛 目白より(はがき)〕
この頃ハガキが新しくなりました。見本をかねてお医者様の名前をお知らせ申します。慶応大学病院外科|元木《モテギ》蔵之助氏です。この方は日本での権威です。では又手紙は別に。
八月十五日午後 〔巣鴨拘置所の顕治宛 目白より(封書)〕
八月十五日 日 第二十四信
きのうは、腰をかけていらっしゃれたからすこしは疲れがましでしたか? 本当におやせになったけれども
前へ
次へ
全235ページ中140ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
宮本 百合子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング