轤「てゆくこととは、考えて分っていることとやって見てわかっていることとの間に在る微妙なちがいのようなところがあって、そのやって見てわかるところが漸々《ようよう》身について来たようなところがあるのです。本当に今年は沢山小説を書こう。作品の中に作者の肌と体温と現実の社会的血行がうずいているような作品こそ書きたい。書いてゆくに際して、そこまで出し切れる迄修練したいと思う。私の持っている作家的水準は決して単純に低いとは云えないものであるが、私が自分に求めているだけの闊達《かったつ》さ、強靭《きょうじん》さ、雄大さはまだわがものとしていません、まだその手前での上手《うま》さであり、確《しっか》りさである。
 昔の小説家が主観的な力《りき》みで、そういう箇[#「箇」に「ママ」の注記]性の範囲での闊達さに到達した、そういうのではない内容での闊達さ、美、簡素な力、そういうものが本当に欲しい。そしてそれは作者の生きかたからだけ求められるものですからね。こんどの小説を書いて行くうちに何だか私は自分のリアリズムの扱いかたが高め得る方向を見出したようでうれしい。どうかこの方向がのびるように!
 一生懸命に努力
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