チてかえりました。日本の映画も追々心理的なものを捕えて表現しようとしているところへ迄来ている。だが、まだまだ不十分。女の内的なものの表現が弱いのでこの作は大分弱くなっている。チャンバラでないものを作ろうとする努力に対してはこういう試みも支持されている訳です。文芸映画の陥る危険は散文的なものと映画的なものとの区分の不鮮明さですね。
タカノの店がすっかりひろがって派手になりレビュー的セットになってから私ははじめて――だから去年以来はじめて。美しい果物は万惣をも思い出させ野菜サラダの味なども思い出させました。
一昨日は、島田からかえって一仕事マア終ったしお目にもかかったし、いね公曰く「きょうはやっとホッとしたでしょう」きのうは何とあつかったでしょう。土曜日で昼迄働いた若い女の人たち数人遊びに来ているところに手塚さん市川|苺《いちご》をもって来てくれ、暫く皆と話し、運動ズボンを買うとか云って新宿へ出てゆきました。戸塚の二人は別々に勉強部屋をもっていることをお話ししましたかしら。妹さん夫婦が転任になって来たので近くに一軒もってその二階に鶴さんがいます。御飯はこっちの家。細君の方は二階に大体ひとり仕事するようになった。でも出入りで、やっぱり昼間はザワザワしているが。――
きょうは又斯うして霧雨で、しずかで、私にはいい日曜だが、体には全くよくない。どうか呉々お大切に。実は[#「実は」に傍点]などと、汗をとっていらしたところを歩いて来たりして。――夜はよくおやすみになりますか。おかゆは十日分。パン一日おきは本月中云いつけておきました。本も注文してお送りいたします。私の方は※[#「くさかんむり/意」、第3水準1−91−30]苡仁《ヨクイニン》湯という漢方の煎薬をのんで、徹夜廃止で、早いときは十一時頃床に入って大いに自重して居ります。何となし少しずつましになって来る感じです。この前の手紙に申しあげたように今来ているお久さんという十九歳の信州の娘は淡白快活で常識もあり大変気が合い、私はお安さん以来の落付きです。そして兄の感化もあるのか、さっぱりして、安より明るい。私はこの好条件を十分活用して仕事をよくし、体を直すつもりです。どうか御安心下さい。
島田の家の事情が却って私たちについて物わかりよくしているとお手紙にあることは全く同感です。それは本当です。私は島田の家に深い情愛を感じて
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