おたおれになったのですが、やはりよっぽどの御安心でしたのです。こちらの家は、今はすっかりこちらの所有になったわけで、二階などすっかり畳がえが出来、雨樋も壁もさっぱり白く手入れされ、家の中は、一つの清潔で静かな活気に充ちています。お店の方も、明るくなって居る。野原の方はこちらのように手堅く行かず、あすこは全部売却して、Tさんのいる、広島の方へ行こうと云っていられる由です。二千百円ぐらいの整理をし、あと千四五百をあまして、出かけようとして居られる由ですが、その価では買手が見つからぬ由です。きのうもゆっくりお母さんとお話し、野原は、あなたも思い出をもって愛していらっしゃるが、将来、若い二人が仕事をしてゆくには、どうしても、今の場所の方がよいから、ここは年の地代 \60 でやはり持っていて、向い側に九十坪ほどの横長い地面が \1200 ほどで手に入るから、達ちゃんの結婚のための必要もあり、出来るだけ早くそこを手に入れておいて、貸家にしてもよいということに大体御相談がまとまりました。この家を達ちゃんのものにしても土地がないので、この辺では結婚の話にもなり難い、まア土地も一寸あるというところで嫁に来させても、となる由。それで私は、私たちで、その半分でも出来るだけ早く都合して、そっちを解決して、出来ることならお父さんに達ちゃんのお目出度《めでた》を見せてあげたいと思います。私たちのお目出度はあんまり本質的すぎて、世間のお祝儀は高とびした形だったから。ああやって、お父さんがニコニコ楽しそうにしていらっしゃるとほんとうに、そういうよろこびもさせてあげたいと思うし、お母さんのそばにいる、若い女のひとの手も実に入用なのがわかります。これはいい案でしょう? あなたもきっと賛成でいらっしゃるでしょう。講の方が片づいている以上、それがよいと思います。
 隆ちゃんは、目下の考えでは運転の方でやってゆきたい由で、兵隊まで(一年予)うちを手つだい、あとはよそにつとめて、という気らしいが、お母さんは、達ちゃん一人では無理だから、月給制にしてずっと協力してやらせたいという御意見です。そして、ここのお店も会社組織を改めて、達ちゃんの名儀になさる由。お母さんは今まで女の社長でいらしったのよ、御存知? うちには、なかなかアマゾンが出ますね。きのう、お母さんと二人で大笑いしてしまった。だって女の社長なら、婦人雑誌
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