ト学問的な本をしらべて、腸と太陽燈療法についての本をお送りしましょう。普通の本やではだめです。かえりにもとの砲兵工廠の横を通ったら、今あすこは後楽園スタジアム九月開場予定として工事をやって居ります。中村光夫の『二葉亭四迷論』を古本で買いました。御覧になる気はないかしら。『胃腸病の新療法』日野お送りしますが大したことなし。終(第二)
八月十七日 〔巣鴨拘置所の顕治宛 目白より(ダマスカスの細工物「ランプ」の絵はがき)〕
八月十七日、きのうの午後太郎と一緒に本郷の南江堂へ行って、本を買いお送りしました。私は何というあんぽん! ほんとに何という。外ならぬあなたが体のために本をよむことも注意していらっしゃるということの意味が、やっと今になってはっきり判ったなどというのは。本当に御免なさい。私はこれから本をよまぬあなたのために、毎日一枚ずつ小さいお喋りをのせたハガキをかくことにしました。仕事をはじめる前の挨拶として。
八月十八日 〔巣鴨拘置所の顕治宛 目白より(トルコの細工物「大ざら」の絵はがき)〕
八月十八日、朝。
御機嫌よう。工合はいかがですか。きのうは九三度二分ありました。濡椽の外の柱にさち子さんが蒔いた朝顔の花がこの頃咲き出し今も咲いている。きょうは、小さい小説の仕事にかかります。元フランスの首相であったブルムが「結婚の幸福」について論文があり、それは男も女も多夫、多婦的傾向をもっているのだから、或年齢までそれでやって後結婚すると幸福だと云い幸福を平凡と休安に規定しているところは彼の進歩性[#「進歩性」に傍点]を語っているではありませんか。
八月二十日 〔巣鴨拘置所の顕治宛 目白より(国立公園富士箱根大涌谷の絵はがき)〕
八月二十日、永井荷風の「※[#「さんずい+墨」、第3水準1−87−25]東綺譚」ではないがラジオはほんとうにきらいだ。この頃はあっちでもこっちでも。家々が開け放しだからなおたまりません。空が皺くちゃになるような感じですね。お気分はいかがですか。私は体の工合がつかれて余りひどいから明日あたりから暫く国府津へ仕事をもって行こうと思います。疲れがたたまっていてよろしからずです。きょうは又少々暑くなりましたね。
八月二十二日 〔巣鴨拘置所の顕治宛 神奈川県国府津前羽村字前川中條内より(封書)〕
八月二十二日、晴、第二十五信、
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