フ一かでも価値のある成果をもつことが出来るよう、時々お目玉も大変にいいわ。
郵船のものや何かきのうお話した通りです。『ダイヤモンド』の何頁かをフームと眺めていらしたでしょう、可笑しい。お手紙のうち乾布と冷水をやっている、のあと、僕の石盤にも云々まで二行半真黒けよ。あなたのお手紙としては初めてです。それから、窓をあけて眠るのは、雨天や靄の濃い時はよくないそうです。シャボンはこれからずっとお送りします。匂いというものは神経を休めるから。神経の疲れたとき水でシャボンで手を丁寧に洗うのは大変よくききます。御存じかも知れないけれども。
お久さん、お久さん元気かねと来ているよと云ったら、おや、ありがとうございます大元気だとおっしゃって下さいましって。暑いので簡単な服を着て、鉢巻をして、なかなかユーモラスでやっています。あんまり足の裏を真黒にしているので熊の仔という名があります。信州の中農なので生活に対する気分が、気質的にはよいが、どこまでもしっかりしたということは望めず。雅子さんは一ヵ月体が悪いので休暇を貰って今保田にいます。稲子さん、戸台さんと皆あっちです。ユカタあと一二枚ほしいとこのお手紙にはあるけれども、きのうはもういいと云っていらしたわね。
きのう、本はおよみにならないのでしょうとおききしたのは、近頃の流行的作品なるものを少しずつ読んで頂きたいと思っていたからですが、勿論いそがず。
作品の評価の主観性の要求とはなかなか微妙な錯綜と混乱とを導き出しています。作品に社会性を求める必然は健全ですが、平凡な市民の日常的限界が作品の限界となりやすくそこに又経験主義的な危険がかくされている。婦人作家の昨今の暮しぶりもいろいろに分化して来ているし。では又。お体のことは決してくよくよはしません。でも、非常に本気なの癒そうとして。暑さをお大事に。
八月十五日夜 〔巣鴨拘置所の顕治宛 目白より(はがき二枚)〕
さっき手紙を書いてから東京堂へ出かけて、かねて御注文の図書総目録というのを調べました。あれは栗田書店から出ているので昭和八年版新しいのなしです。昭和八年以前の本を知るのにだけ役立つわけですが、どうしましょう。『出版年鑑』の十二年版はもう御覧になったのでしたろうか六月出版ですが。もし昭和八年以前の分でよかったら総目録をお送りいたしますが。(第一)
本郷の南江堂へ行っ
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