盲腸のことを御存知ない。お体の方は順でしょうか。第一に、私は六日頃からベッドとデスクと四尺ばかりのところを動いて仕事をはじめ、十一日の朝終りました。あなたが手紙で、もう今頃は一区切りがついてよろこんでいるだろうと仰云ったのは一日だけ早かったわけでした。盲腸は軽くて今もうおかゆですが、冷やした結果、肝臓が痛み出して、只今では盲腸はケロリとしてむしろ肝ゾーが痛い。短い上下の間に、全然反対の療法のいるものがかち合って可笑しいことになりました。いよいよ、盲腸をとってしまう必要あり。これは来年の仕事です。
 ともかく仕事がやれる程度であったことは大助りでした。仕事の結果は、何しろうんと長いものの登場ですから、ヨーロッパ旅行の途中神戸へついたようなものです。その部分としては満足です。じっと先の方を見てゆっくり歩いている、そんな風。そしてこの仕事では一晩も徹夜をしませんでした。これはどうかほめて下さい。今度の経験で、いわゆる病弱なものの時間上の得というようなことを感じ、苦笑ものです。私の希望しているような生活的な、表現の健康なシムフォニックなものがつくられそうです。発端にその可能があらわれていると信
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