この手紙を、二階の部屋のベッドに仰向きになって背中の方へクッションをつめて、板に紙をのっけてかいているのですが。そして、こんな形で手紙をかかなければならないことについて、小さくなっています。二日の夜、夕飯後、急におなかが苦しくなって、咲枝は経験者だもので、早速盲腸と診断し、お医者を呼び、冷やし、それでも盲腸としては大分軽い方です。この頃ずっと仕事に熱中しているから養生生活であったのに、何と可笑しいでしょう。一身同体という証拠ででもあるのでしょうか。手術はせず、内科的になおしますが、いろいろ面倒くさい。流動物ばかりです。私の位でも苦しいことは相当であったから、あなたはさぞお辛《つら》かったでしょう。歩くなどということは実に苦しい。どうかお大切に。私の方はいろいろ揃っているのですから。きょう板上執筆の試みとしてこれを書いて見ているのです。が、気を入れては少し無理かしらとも思う。何とかしてとにかく仕事だけはやります。どうか御安心下さい。全く今年は盲腸の当り年です。びっくりしてしまう。熱ははじめ八度出たきり。ずっと平熱です。
この間丸善で毛布の二枚つづきのをそれぞれ光井と島田とにお送りしてお
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