れ、ひっぱられているものがあって、だから駄目です。尤もこれは一方的な感じかたかもしれないのだけれども。
 十六日にお目にかかったら、途端にああ、休まったと感じるだろうと思っておかしい。ホウ、ユリのバカ。
 でも、日にやけたし、体がしまったし、脚は丈夫になったし、決して効果なしではありません。その点は御安心下さい。おかしいでしょう? だから主観的な私の心持の複雑な交錯にかかわらず、生理的な条件はよくなっていること確かです。きょうの手紙は永く書いても同じ。これでおしまい。

 十月十四日夜 〔市ヶ谷刑務所の顕治宛 長野県上林温泉より(中沢弘光筆「北信濃風景」の絵はがき)〕

 このエハガキに描かれているところは今は一面の段々の田で、稲が実り、背景の濃い杉山とつよい色調のコントラストです。多分この左手の方に一米十円をかけたという一万メートルの志賀高原へのドライヴ・ウエイが通って居ると思います。雪は上林で三四尺の由。志賀の上では七尺だそうです。冬の健康法を私は、雪の中で頬っぺたを赤くしてやりたいと思う。ポコポコしたところへ逃げずに、ね。
 中沢さんの絵では雪のブリリアントなところが出て居ません
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