二日、小雨ふったり、やんだり。きょうは山の中から出かけて、二人は毛襦子の大コウモリをつき、善光寺見物です。善光寺下という電鉄の駅でおりたら陸続として黄色の花飾りを胸につけた善男善女が参詣を終ってやって来る。四十以上の善女が多い。今は付近の小管という家で名物のおそばをたべようというところです。寺はつまらぬ。長野という町は山々を背に何となく明るい雰囲気をもって居ます。山々の中腹に白く靄《もや》がたなびいて雨中山景です。
 ソバは変にニチャニチャして、ちっともおいしくありませんでした。手打ちソバなどたべさせぬひどいもの也。

 十月十二日 〔市ヶ谷刑務所の顕治宛 長野県上林温泉より(封書)〕

 十月十二日(月) 第十六信
 九月三日に下さったお手紙は十日につきました。あなたが、私について、一層生活の達人になるようはげまして下さること、本当にありがとう。そのことは、近来自分でも益※[#二の字点、1−2−22]はっきり感じて居ることでした。何故なら一昨年の六月以後去年の五月までの間に一昨年の九月頃まで体が悪くていたにもかかわらず、一冊の『冬を越す蕾』がまとまるだけの仕事をしました。今年にして見
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