ゆけるかしら」とききに来られました。作家の生活の張りの難しさを深く感じました。書いていると限りなし。ではこれで、この紙をどけ下から原稿紙を現してはじめます。「私の大学」の部を。シャパロフと並行に。面白い仕事です。ガスケル夫人は、シャロッテ・ブロンテの伝記を書いたが、其はイギリスの(十九世紀)文学的業績中伝記文学の傑作だそうです。
 二十二日の夜中。
 雨が降っている。疲れて、しかし十分働いた満足の感じ。汗が体に滲《にじ》み出している。鈴虫のことについて書いたエハガキは到着いたしましたか? その鈴虫が今しきりに声を張って鳴いて居ります。おお、何とくたびれたことでしょう。そして、心が微笑している。一種の幸福さ。――
 これを書いて感じたことですが、私はこれまでの――昨年五月十日迄の手紙では、こういう風に私の生活、仕事の中からの直接の響きのままの手紙を書きませんでしたね。手紙として整理して書いて居りましたね。おや、どこかでボーが鳴っている。
    ――○――
 二十三日、日曜日です。
 ロンドンのローヤル・ソサエティー・オヴ・ブリティッシュ・アカデミーから、父の閲歴について問い合わせが来て
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