い。今は寒暖計だけ。こういう程度に直接生活的な器は何だか生活慾を刺戟していい心持です。ところが時計はチクタクの大きく聴えるのなど大きらいです。あの夏になると眠りがちな時計を目立たぬところへ置いて安心しているから可笑しい。でも(エジソンでも時計はきらいでしたそうですからね)仕事の速度というか、進み工合というか、そういうものが結局二十四時間を計っているのだから。
コスモスの花瓶《かびん》にホンのすこしアスピリンをいれました。ぐったりしたから。利くかしら? もとスウィートピーにアスピリンをやったら、すっかり花が上を向いて紙細工のようになってうんざりしたことがあった。
この頃の小説の題は皆一凝りも二凝りもこって居ます。高見順の「起承転々」「見たざま」村山知義の「獣神」、高見順は説話体というものの親玉なり。それから「物慾」とか「情慾」とかそういう傾向の。高見順という作家は「毅然たる荒廃」を主張しているそうですが、バーや女給やデカダンスの中では毅然たるものが発生しにくいし他に生活はないし、背骨が立たぬから説話体をこね上げたらし。解子さんなどこういう才能の跳梁《ちょうりょう》に「私は小説を書いて
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