のとしつつあることを感じて居るのです。このように私の経験。悲劇の発生を不可能ならしめる程充実した愛の高められた本質の美しさ。そういう人生の最も耀《かがや》いた、強烈な経験を経て、私は自分が愛する者たち(父ばかりでなく)に対して持って来た愛し方が微塵《みじん》遺憾な点のないことに、深いよろこびと確信とを新しくしました。私が一番いい方法で丈夫になるための努力をすることを信じて御安心下さい。そして、一層磨かれ、深められ豊かにされた情熱で、自身を貴方にとって遺憾ないものであるように仕事し、我々の心は充ち満ちて、どうしてうたわずに居られよう。ねえ。貴方はそこで可能な最上の生活を営んでいらっしゃる。今は私もそのディテールを知って居るわけです。私はこっちで段々健康をとり戻し、好い小説を書きはじめる。
五月二十五日 〔市ヶ谷刑務所の顕治宛 本郷区駒込林町二一中條咲枝より[自注1](正宗得三郎筆「四国風景」の絵はがき)〕
きょうは御病気の様子が少しはっきりわかったのでいくらか安心いたしました。
面会の節、つい申すのを忘れましたが生玉子は白味をのぞいて黄味だけ召上れ。それから夏ミカンをよくあがる
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