した。というのは、私は家であなたが御心配下すったとは全く逆の位置にあるからです。真面目な話。私は大切にされているが、其はいろんな心配を相談出来るからというとり得のためなのです。そして私はもうこういう種類の心労は大変疲れたから、早く自分の単純で書生らしい生活に戻りたいと願っているところなの。
 この前の手紙で申し上たような有様、更に現実はあれより複雑故、一番広い視野で先を見通すものが、こういう中では疲れ、そしてあるところでそのものとしての限度を見出し、それ以上の力こぶは入れても事情は改善されぬと見きわめないと徒らな精力を消耗するのです。叱れるうちはまだよいというのは本当の言葉よ。叱ったって仕方がない、わるい[#「わるい」に傍点]と云うのではないがどうも何とも仕様がない、そういうのは大変困るものです。そういう生活に対して或レン憫《びん》が感じられる場合こちらの心持は楽でないところがある。家じゅうで今は私が一番年上なのですもの。いろいろこれまでと違う経験をして居ります。大事にしすぎて昔風のお嬢さん風邪を引くことがないとも限らない等と! 温室の空気などと! おお。私は重い睡い空気と何とか新鮮な
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