一家の生活から取材されている。
[#ここで字下げ終わり]

 七月十九日 〔市ヶ谷刑務所の顕治宛 駒込林町より(封書)〕

 七月十九日 日曜日 午後四時  第三信
 蝉《せみ》の声がしている。ピアノの音がしている。

 二階に上って来て手摺から見下したら大きい青桐の木の下に数年前父が夕涼みのために買った竹の床机が出ていて、そこに太郎がおやつ[#「おやつ」に傍点]のビスケットをたべている。わきに国男が白い浴衣姿でしゃがんで、黒豆という名の黒い善良な犬が尻尾をふっている。太郎に私が上から「太郎ちゃん、ワンワンにおかし、はいって!」と云ったら、Sさんというスエ子の注射のために来ている看護婦が「おやりになってるもんだから味をしめて動かないんです」と笑っている。太郎は自分の手からビスケットをやってなめられて、アウとうなっている。「犬のよだれ[#「よだれ」に傍点]はきたなくないことよ、お兄様」「そうかい」そんな会話。日曜日らしいでしょう?
 私はきょう下の食堂へ来ていたあなたからのお手紙を声を出して家じゅうのものによんできかせました。そして、どう? 〓〓〓何て云いわけをして上げる? ときつ問しま
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